ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

割安優良株と駅前の空家は似ている

こんにちは、らくからちゃです。

前回、なんちゃって財務分析をしてみた記事が、いろんなひとに見て頂けたみたいで『会計屋』として大変嬉しく思っております。ヽ(=´▽`=)ノ

 その一方で、今までご紹介してきた以下の銘柄

とは異なり、かなり会計的な知識も必要になる記事になってしまったと思います。そこで、前回ピックアップした銘柄について、まずはどういう風に考えてピックアップしていったかについて、会計知識ゼロのひとにも伝わるようにまとめていきたいと思います。

こんなことを書きたかったのさ

 まず投資の世界には、銘柄を分析する方法として、大きく分けて

  • テクニカル分析
  • ファンダメンタルズ分析

という2つの考え方が存在します。ざっくり説明すると、テクニカル分析とは、株価の値動きから今後値上がりが期待できる銘柄を探していく方法です。一方、ファンダメンタルズ分析とは、企業の報告している財務データを分析していく方法です。テクニカル分析が、市場の流れを読む分析であるのに対し、ファンダメンタルズ分析は企業の基礎体力から適正な価格を探っていく分析手法となります。

さて、2回連続でテクニカル分析っぽい分析をお伝えしてきましたが、『会計屋』として、いっちょ財務諸表をベースにした株の分析もあげねばと思い書いてみたのが前回の記事となります。

前回の記事でも書きましたが、ファンダメンタルズ分析にも大きく分けて、利益の増加率等を分析する『成長性分析』と、持っている資産の状況を分析する『安定性分析』という考え方があります。そこでまずは、市場が乱高下する今だからこそ、財務的に安定性が高くて割安な銘柄分析がニーズあるかな?と思って書かせて頂いた次第になります。

PBR1倍以下の会社はお買い得?

さて、企業の『割安性』を分析する代表的な指標として『PBR(株価純資産倍率)』というものがあります。ざっくり言うと、PBRとは帳簿上の全ての資産から負債を差し引いて得られた『純資産』の金額と株価✕発行済株数で得られる『時価総額』の金額を比較した比率になります。時価総額÷純資産で計算しますので、株価が企業の純資産の何倍になっているのか?が分かる指標ですね。

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図だけみると、『全ての借金を返した後の会社の価値と時価総額』を比較していることになりますので、PBR1倍割れの会社は、会社の持っている純資産の価値を下回る価格で株を買うことが出来るため、『お買い得』ってことになります。でも、PBR1倍以下の会社って結構沢山あるんですよね。

低い会社なんて0.2倍。つまり純資産の1/5の値段で株を買うことが出来ます。そこに会計のトリックがあります。

会計の世界では、『取得原価主義』といいますが、帳簿に載っている資産の金額は、(金融商品などの例外を除き)買った時の金額で計上します。つまり、帳簿に載っている金額というのは、『その金額で売れる金額』というわけではないんですね。

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さすがに、大きく時価が下がった場合や利用価値が無くなった場合は、『減損』といって評価金額を切り下げる処理をしなければなりません。

しかし、こちらのコメントでご指摘頂いている通り、

超優良財務なのに超割安銘柄ベスト50 - ゆとりずむ

PBRが0.8倍以下ってアホか。雑貨屋ブルドッグの200円代のときPBRは0.2。今の株価見て戦慄しろ。小売は不良在庫で資産が多く見えるだけで不良在庫処分で特損食らって二度と浮いてこないことがある。

2015/09/14 20:10

b.hatena.ne.jp

特に多品種を扱う小売業では、本来計上すべき商品評価損がスルーされるケースも多く、原価未満の金額でしか売れない状況になったとしても、そのままの価格で帳簿に残り続けるんですね。ですので、本当に『割安』かどうかは、計上している資産の中身をきちんと分析してみないと中々分からないのです。

Cash is King

いくら資産を大量に持っていたとしても、本当に価値があるかどうかは帳簿をいくら眺めても分かりません。これでは、安全性が高く割安な銘柄の分析にはなりませんね。ただ、唯一確実に価値があると言える資産があります。それは現金です。そこで今回は、時価総額>保有現金となっている銘柄を探してみることにしました。

でもそれだけでよいのでしょうか。いくら現金があったとしても、その分借金も多いようでは意味が有りませんね。そこで、保有現金に加え、時価総額>流動資産-流動負債-棚卸資産のものも分析対象とすることにしてみました。

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ちょっと用語を整理すると、会計の世界では、資産・負債をまずは大きく『流動』『固定』に分類します。負債から見ていくと、流動負債とは1年以内に返済期限を迎える負債のことを言います。買掛金とか支払手形とかそういった日常的な支払に関連する一時的な借金ですね。一方、固定資産は返済までの期限が1年以上のものです。社債や銀行借入など、期限が1年以上の借金ですね。

固定資産もどうようの考え方ですが、流動資産は更に

  • 当座資産・・・現金に加え、売掛金や受取手形など、1年以内に現金になるもの
  • 棚卸資産・・・材料や商品など、経営活動に必要な在庫
  • その他・・・前渡金や前払費用など、一時的な資金の経過状態を表すもの

に分類されます。棚卸資産は、買ってきた金額で評価され、その金額の現金にはならない可能性もあるので、(流動資産−棚卸資産)-流動負債で得られた金額を(純)当座資産として計算し、その株価との比率についてを分析対象としました。

スクリーニングの基準

さて、評価方法は決まりましたので、早速分析をしていきましょう。と、言いたいところですが、まずは全上場企業の財務データを手に入れる必要があります。上場企業であれば、財務諸表はホームページなどから手に入れることが可能です。ただ、今欲しいのは、全上場企業

  • 現金預金
  • 流動資産
  • 流動負債
  • 棚卸資産

の金額です。これはちょっと骨の折れる作業です。売上高とかのデータであれば、まとめてCSVにしているものもあるのですが、より詳細なデータであれば、自分でデータを集めていくしか有りません。そこで、今回利用したのがこちらです。

日本の上場企業の決算情報は、XBRLという形式でXML化されています。ご紹介させて頂くこちらは、XBRL形式で公開されているデータをエクセルの関数で簡単に取り出すことが出来るマクロです。ただ、ネックになるのは『処理速度』。まずは、公開されているXBRLのデータを取得する必要がありますが、XBRLへのリンクは、有価証券報告書が公開されると同時に、そのデータを取得しているこちらのサイトのデータを元に取得できます。

これ、当然ですけど処理時間がすっごい掛かるんですよね。上場企業って確か3000社くらいあったと思いますが、1社処理するのに10秒以上掛かります。

やってらんねーヽ(`Д´)ノウワァァァン!!

と思いましたので、事前にスクリーニングを行うことにしました。その条件が下記です。

  1. 当座比率が300%以上
  2. PBRが0.8倍以下
  3. 自己資本比率が80%以上
  4. PCFRが12倍以下
  5. 時価総額が16億円以上

内容は、前回お伝えいたしましたが、つまり『1.金が余っていて、2.純資産に対する株価の評価は低く、3.負債は少ない。4.ついでに現金流入に対する株価の比率も低くなく、5.おまけで時価総額で件数調整』した結果をベースに解析を行ったわけですね。

ちなみに、こういった財務データの分析は『財務諸表分析』ともいい、会計学の世界では、結構大きな確立されたジャンルです。ご興味のある方は、こんな本から初めてみるといいと思います。

ポイント図解式会計 財務諸表分析入門 改訂版

ポイント図解式会計 財務諸表分析入門 改訂版

 

 割安優良株と駅前の空家は似ている

ここまで具体的な分析の手法について取り上げてきました。でも、結局のところ皆さんの知りたいのは『この銘柄が値上がりするのかどうか?』ですよね。まず最初にお伝えしておくべきことなのですが、割安だからといって値上がりする銘柄とは限リません。むしろ、考えるべきことは、『どうしてこの値段なのか?』です。

はっきりいって、会計学だけを勉強してきたひとには、今回ピックアップした銘柄の株価って『気味が悪い』ものに見えると思います。現金という、ごまかしの効かない資産が、時価総額よりも多いんですからね。極端な言い方をすると、『株を買ったら、買った金額と同じ額の現金に溶鉱炉がついてくる』みたいなイメージになります。

じゃあ、何故こんな株価になるのかというと、その答えは『株式の流動性』にあります。今回ピックアップされた銘柄は、ジャスダック・名証・二部上場の比較的時価総額が小さく、売買される頻度も少ない銘柄が中心になります。そういった銘柄は、ファンドや機関投資家からは敬遠されます。好きなタイミングで売ることが出来ないからですね。その結果、安値のまま放置されているという現状にあります。

なんだか似ているなあと思ったのは、地方都市の都心部の廃墟のような建物ですかね。更地にしてマンションにでもすれば?とも思うのですが、そもそも手を出そうとするひとが少なく、売買の市場が成立していないんですね。

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(出典:空き家率の将来展望と空家対策特措法の効果)

あと、頭の片隅にでも入れておいて欲しいのは『時価総額≠買収必要価格』ということです。100株だけ必要なのであれば、一番安く売りに出しているひとからだけ買えば良い話です。一方、10,000株必要なのであれば、より『この株の価値はもっと高いはず』と思っているひとから買う必要があり、平均取得単価が上昇していきます。

その為、一気に買収しようとしても思った以上に資金が掛かり『会社解散して丸儲け』にはならない可能性は高いと思います。

また、有り余る現金を有効活用しようとしても、他の株主が乗り気で無いケースが発生することも考えられます。これもなんだか、既存住民に反対するひとがいて取り壊せないマンションみたいですね(笑)

死に金を生き金にするにはどうしたらいいんだろう

『普通の会社』は、内部留保が溜まってきたら次の投資に使うか、株主に還元するか、ボーナスとして支給するかなどなどを考えます。ただ今回あげた会社は、そういったことを行わず、ただ漫然と現金として積み上げているだけのように見られます。

経営としては何か問題があるのかもしれませんが、投資対象としてみた場合、

  • 配当や自社株買いの余地が大きい
  • 今後の投資活動に回せる資金が多い
  • 現金を狙ったハゲタカファンドに先回り買いしておけばTOBで儲かるかも

といった見方をすることが出来ます。ただ思うのは、こういった会社って、きっと誰かが動かない限りずーっとお金を溜め込んだままなんだろうなあと。それって、駅前の空家と同じで、本来有効活用すればより経済を活性化させる効果があるに、放置されているのと同じなんですよね。

いま、日銀は大規模な株式市場への資金の投入を行っています。その際、日経225やTOPIXに連動するETFを買い入れているようですが、どうせならこういった放置されている銘柄をまとめたインデックスを作って、それを買い増しするのはどうかなあなんて思うんですよね。ある程度財務の健全性が担保されているのであれば、株価が値下がりしても安心ですし、流動性が確保されれば、投資を考えるヒトも増えるかもしれません。

また、こういった銘柄に市場の目がむき、遊休資産の有効活用への動きが加速すれば、経済全体の活性化にも繋がるんじゃないのかなあとふと思う今日このごろです。

ではでは、今日はこのへんで