ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

ランドセルと格差社会

こんにちは、らくからちゃです。

ここ最近、夏場だというのにランドセルのCMを見かけることが多くなってきた気がしますね。ここ最近のランドセルのCMは『イオンのランドセルガール』として有名になったエヴァちゃんなど、可愛らしい子役さんが使われることが多く、見ていてほっこりしてしまいますね。

f:id:lacucaracha:20150819002517j:plain

ちなみに、わたしはロリコンでは決して無いのですが、何故かAmazonからは無邪気の楽園が毎度お勧めされてしまいます。何でやろ?

話を戻しましょう。この時期にランドセルのCMが多いのは、実はランドセルが一番売れるのがこの8月の時期となっていることが理由だそうです。なんと、21%が8月に売れるそうです。

f:id:lacucaracha:20150819003027p:plain

出典:2015/8/3 09:50〜放送 フジテレビ系ノンストップより

その理由として挙げられるのが、祖父母によるランドセルの購入。アンケートの結果を見ると、母親側の祖父母が4割と最も多く、父親側の祖父母も足すと、ランドセルの7割近くが『祖父母』によって購入されているそうです。

f:id:lacucaracha:20150819003743g:plain

出典:7割が祖父母にランドセルを買ってもらう

このニュース、皆様はどのように感じられますか?色んな感想はあるかもしれませんが、わたし個人の感想としては、むしろ気になるのは、この26.5%の『パパとママ』の子どもたちのことです。本人たちの意思によって、自分たちで買うことを決めたのであれば良いのですが、祖父母の支援が得られなかったのであれば、その孫達はどうすればいいのでしょうか。

特に『毒親』に悩んでいる人たちにとって、このニュースはいったいどのように聞こえたのでしょうか。

子育て世代と祖父母たちの経済状況

 さて、最近のランドセルの平均的な相場について調べてみたところ、概ね4万円ほどになるようです。

現在では20代で父親・母親になるのは珍しい方かもしれませんが、20代後半に絞って平均年収を見てみると、男性で371万円、女性で295万円となるそうです。つい15年前までは、20代後半でも平均年収400万円は超えていたのに、ここ15年で40万円近く年収が下がってしまった計算です。

f:id:lacucaracha:20150819004923g:plain

f:id:lacucaracha:20150819004957g:plain

出典:20代・20歳代平均年収-年収ラボ

というか、いくらなんでも20代前半女性の平均年収は少なすぎる気がします。一月に直すと18万円しか有りません。派遣社員など非正規雇用労働者の賃金も含めた平均なのかもしれませんが、これが『平均値』ということはこの数値を下回る人も多数居るわけで、生活保護水準以下なのでは?と思ってしまうのですが・・・。

一方の、祖父母世帯については、かなりばらつきの大きな状況となっています。ここでは、収入ではなく『貯蓄現在高』についてみてみましょう。

f:id:lacucaracha:20150819010037g:plain

出典:統計局ホームページ/統計からみた高齢者の暮らし その6

平均では、2305万円となっていますが、

  • 200万円未満 9.6%
  • 〜400万円未満 6.6%
  • 〜600万円未満 7.6%

となっており、1/4の高齢者の貯蓄は600万円未満となりそうです。以前の記事でもご紹介しましたが、収入面で見てみても、年金での収入が200万円未満となる高齢者は1/4程度となります。 

どの程度の貯蓄・収入があれば『ランドセル』が買ってあげられるのかは分かりませんが、高齢者の格差は過去の蓄積の影響を受けるため、一般に若年者よりも大きく、祖父母の経済状況に依存するような社会構造は、格差の拡大を助長しかねません

1500万円のスタートラインの差

この4万円の『ランドセル』の支援が受けられるかどうかについて、金額が大きいか小さいかは意見が別れるところだと思います。しかし、1,500万円ではどうでしょうか?

現在『期間限定の特別措置』として、祖父母から孫へ教育目的の資金贈与を行った場合、贈与税が免除されるという特例措置が行われています。具体的には、学校の授業料などの直接の教育目的の場合は最大1,500万円。塾や習い事などについても、500万円まではこの特例措置の対象となります。

f:id:lacucaracha:20150819011432p:plain

出典:夢ギフト ~教育資金一括贈与専用口座~

もともとは、祖父母の世代から孫世代へ、金融資産を移転して、『タンス預金』を動かそうということが目的で始まりました。今では、多数の金融機関も、この制度に対応した金融商品を売り出すなど、相続税の増税とも相まって、『お金が余って余って仕方のないお年寄り界隈』ではちょっとしたブームになっているようです。

でもどうなんでしょう。『お金の足らない若い世代にお金を回す』という趣旨については異論はありません。でも、子供に生まれた時からこれほど大きな格差を与えてしまっていいものか?とかんがえると、ちょっと何だかなあと思ってしまうのです。

貧困連鎖 拡大する格差とアンダークラスの出現

貧困連鎖 拡大する格差とアンダークラスの出現

 

こちらの本でも取り上げられていたような気がしますが、こういった『富の継承』の推進は、格差の固定化を招きかねないんですね。それは、収入や資産といった『富の格差』もありますが、『結婚率』『進学率』といった生活に直結した数値においても、『貧しさ』は再生産されるという傾向にあるようです。

ランドセルと孤育て 

例えば、こんな女性を想像してみてください。

30歳シングルマザー。子供は上が5歳で下が2歳。派遣社員として働いているが、月収は何とか25万円。

さて、ここにこの一文を加えるかどうかで、随分と印象が変わってくるのではないでしょうか。

なお、女性の両親は、自宅から車で30分のところに住んでいる。

実際に調査の結果を見てみても、20代・30代の子育てママが何かあった時に相談したり、頼りにしたりする一番の相手は自分の親のようです。男性は、どの年代でもほとんど配偶者に頼りきりですので、実際に子育ての色々なイニシアティブを握っているのは、母方の両親(それも特に母方の祖母)であることは、わざわざ統計データを持ち出すまでもないことでしょう。

ランドセルが祖父母に買って貰えなかったとした場合その理由は、経済的な理由だけでなく、何らかの理由、距離的な問題だったり心理的な問題だったりするのかもしれませんが、疎遠になっていることなども考えられます。その時、女性はひとりで子育てをする『孤育て』状態に陥ってしまうリスクが大幅に高くなります。

f:id:lacucaracha:20150819014728p:plain

(出典:平成25年度版 厚生労働白書 より)

 こうした『祖父母についての格差』は、経済的な側面だけでなく、子育ての支援という面からも大きな意味を持つように思われますが、それを捕捉するのはかなり難しいように思われます。かろうじて、統計のデータから、支援の有無による影響が見えてくる、といったところでしょうか。

フィンランドの取り組みから学ぶこと

前回フィンランドの歴史について(枢軸国フィンランドの敗戦から伝えたいこと)記事を書いていた時に、この北欧の小国について色々と調べてみました。

以前、『世界ふしぎ発見』などでも取り上げられていましたが、フィンランドでは妊娠・出産に際して、政府から様々な『プレゼント』を受け取ることが出来ます。その内容は、

  • 帽子
  • 手袋
  • タイツ
  • バスタオル
  • 爪切りはさみ
  • 母乳パッド

などなど、子育てを経験したことのないわたしにとっては、『そんなものもあったほうがいいのね』というような物まで、よく考え吟味されたチョイスが贈られるそうです。なんでも、産後の『家族計画』の為にコンドームまで入っているそうです。すごいなあ(笑)。更に、容器の段ボール箱自体も『ベビーベッド』に早変わりするという手の入れようです。

 

でも、この『贈り物』はこの国の子育て支援制度の一部分でしか有りません。もうひととつ、重要な制度として妊娠から出産、子育てまで、役所の『窓口』を超えた『相談の場』としての機能をもった『ネウボラ』です。

そんなネウボラに通い始めるのは、まず妊娠が分かったとき。妊娠の兆候があったら病院ではなく、自分の地域のネウボラへ向かう。健診は無料で、妊娠中は6~11回健診に通う。健診では医療的なチェックだけでなく、妊婦の不安や悩み、さらには家族の状況まで面談で細かに聞き取りをする。

夫も何度か一緒に参加する必要があり、夫婦の関係から経済状況、子どもを迎えることへの不安などまで聞き取りをする。中には、日本ではプライバシーに関わり過ぎじゃないかと言われてしまいそうな質問も多くある。例えば、夫婦間でもめ事が起きやすいのか、そんなときどうやって解決しているのか、子どもを育てるだけの収入があるのか、夫婦間の性交渉まで話は及ぶ。夫が子育てに対して何を不安に思っているのか、夫婦で笑い合うことができる関係なのか…そんな内容を妻と夫両方に質問しながら話し合っていく。妊婦だけでなく、新しく親となる夫婦として2人を一緒に支援していく。

こんなことができるのも、ネウボラでの面談が必ず個別に行われるからだ。1回30分~1時間程度の面談時間がとられ、プライバシーの守られる部屋で毎回同じ「ネウボラおばさん」と話をする。話を聞いて必要があると判断されれば、医療機関、自治体の担当者、児童施設などにつないでくれるうえに、その時々で必要な情報もそれぞれの機関できちんと共有される。病院に行って改めて説明…なんていうことをしなくていいのだ。そして、またその治療や対策が行われながら、ネウボラでの面談も行われるので、常に自分のことを分かっていてくれる場所が確保でき、妊婦にも安心だ。

 どうでしょう。こういった制度があれば、『母方の祖母』という最大のセーフティネットに頼れない状況であっても、経済的にも心理的にもなんとか子育てが出来そうな気がします。

何でもかんでも外国のマネをすれば良くなる、なんていうふうには思っては居ません。でも、子育て世代を巡る諸問題は、各国共通のところも多いので、そこから何か学ぶことはできるように思われます。そして、ちょっと気がかりなのが、日本ではこういった子育ての環境を巡る『格差』について、問題そのものすらきちんと認識されていないんじゃないの?という点です。

まずは、その問題認識からきちんと初めていかなければならない状況なのかもしれません。

ではでは、今日はこのへんで。