ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

プエルトリコは何故デフォルトしたのか?

Hola! Me llamo Lacucaracha.

ギリシャ危機や七夕ショックの影響が一段落し、久々にブラザー(6448)など各種銘柄の含み損が解消でき、ちょっと一息と思ったところにまたまた大きなニュースが入ってきました。

カリブ海の島国、プエルトリコがデフォルト(債務不履行)状態になってしまったようです。

ぷえるとりこ?( ゚д゚)

えーっと、名前くらいは聞いたことあるような・・・と思いダイソーで買った世界地図を見たら、えーっとどこでしょう(;´Д`)?確かカリブ海あたりだったと思うのですが・・・。

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(あると何かと便利な100円地図)

うん。素直にGoogle先生に聞いてみましょう(笑) なーるほど、カリブ海のキューバの隣のイスパニョーラ島(ハイチとドミニカ共和国)のお隣の島のようですね。この島より先は、カリブの小さな島国がぽつぽつと並んでいる。そういう感じの立地条件です。

さて、プエルトリコですが、『国』ではなく、アメリカの『コモンウェルス(自治領)』の一つです。日本人に馴染み深いところでは、サイパン(北マリアナ諸島)あたりもこの分類に入るようですね。Wikipedia先生に聞いてみたところ、

  • 自治政府による内政が認められる。
  • アメリカ合衆国憲法と連邦法の適用を受ける。
  • 主権国はアメリカ合衆国。
  • 元首はアメリカ合衆国大統領。自治政府代表者は弁務官。
  • 地域的限定のある国際機関への加盟は、ワシントンD.C.が承認すれば可能。

ということになるそうです。(出典:コモンウェルス (米国自治連邦区) - Wikipedia)

ちなみに、大統領選挙の選挙権は無く、連邦議会にも発言権はあるものの投票権はない代表を送ることしか出来ませんが、その代わり所得税の負担は無く、他国からも米軍が守ってくれるということのようですね。

そんなプエルトリコがいま苦境に陥っています。厳密にはプエルトリコ政府がデフォルトしたというわけではなく、同自治領政府の公社のひとつが支払期限を迎えた5,800万ドル中63万ドルしか用意できず、残りは支払順延となったという状況です。

でも、どうしてこんなことになったのでしょう?

プエルトリコってどんな国?

 まずは、GDPの状況から見ていきましょう。御近所さんと比べてみても、中々悪くは有りません。

次に、一人あたりGDPも見ておきましょう。

カリブ海エリアで並べてみましたが、34,937ドルとダントツのトップです。ところで皆さん、話は変わりますが日本の一人あたりGDPって、世界第何位くらいかご存知です?

答えは27位で36,331ドル。G7の中では、ブービー賞です。(因みに最下位はイタリア)。だいたいプエルトリコとはそんなに差は有りませんね。

アベノミクスによる円安効果もあったのかもしれませんが、この辺の順位は覚えておいてもいいと思いますよ。

さて、プエルトリコの主要産業といえば何でしょうか?カリブの綺麗な国なので、やはり『観光なのかなあ』と思って見てみたら、結構製造業の占めるウェイトが大きいみたいですね。

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出典:英語版Wikipedia Economy of Puerto Rico - Wikipedia, the free encyclopedia

どうも、生産拠点を島内に置く製造業に対して、数々の優遇税制を打ち出したことが功を奏し(もともと連邦税は掛かりませんからね)多くの産業を本土から誘致することによって成長を実現してきました。特に、代表的なのが『製薬業』。拾い物ではありますが、こんな画像を見つけました。

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出典:http://en.academic.ru/pictures/enwiki/80/Pharmaceutical_Companies_Puerto_Rico.png

ふーむ。ファイザーとかP&Gとか、見慣れた名前もチラホラと有りますね。

プエルトリコが危機に陥った訳

さて、今回デフォルトに落ちいたプエルトリコですが、その苦境を示す一枚のグラフがあります。

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(出典:Puerto Pobre | The Economist)

個人収入あたりの債務の額を示したグラフのようですが、ぶっちぎりのトップです。うーん、でもどうしてこんなことになっちゃったんでしょう?GDPだってしっかり成長しているのにさ〜。と思って色々眺めていると面白いグラフが出てきました。

こちらは、GNIのグラフです。まあ、ちょっと昔の言い方をするとGNPですね。わかりづらいのでGNPに統一しておきましょう。おさらいですけど、GDPとGNPって何が違うんでしたっけ?という人のために、こちらをどうぞ。画像が分かりやすくていいですね。

GDPはプエルトリコで作られたもの、GNPはプエルトリコ人の作ったもの。ざっくり言うと、そういった違いです。つまりGDPは多いけれどGNPは低いということは、『島内で物は作られていても、そのお金が島内の住民に落ちていない』といった図式が見えてきそうです。

さて、急激に指標が悪化した背景について、世銀の人が渾身のレポートを作ってくれていましたので、この中からご紹介していきましょう。

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まずは1つ目。GNPの中に占める投資の割合です。ただでさえ、GNPは減少している中、建設に関わる投資が大幅に減少しています。要因は様々でしょうが、島外からの企業誘致が一段落したことが大きな原因だったりするのかな、なんて思っちゃいますよね。

製薬業や金融業といった、それなりに学歴も必要となる産業では、島内の雇用が維持できなかったのでしょうか、人口減少が続きます。

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この問題については、CNNも取り上げていますが、これもまた興味深いグラフがあります4 reasons Puerto Rico's economy is in a 'death spiral' - Jun. 29, 2015

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ものすごい勢いで、本土へ人が移っているんですね。たった3年で、過去10年間の5倍もの人が出て行っている。この出て行った人たちは、本土でもお仕事が見つけられそうな人でしょうから、仕事がない⇒人が出て行く⇒その人達向けの仕事がなくなるのスパイラルに陥ってそうです。

もう一つ、島の経済に打撃を与えた物が有ります。それが、原油価格の上昇です。シェール革命で原油価格はいま大幅に下落していますが、それ以前は歴史的に見ても高水準をマークしていました。島の経済を支える製造業は、大量の電力を消費します。そして、島の電力はプエルトリコ電力公社(PREPA)によって支えられていましたが、そこに原油高が直撃します。

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さて、プエルトリコの抱える負債についてまとめたグラフはこちらになります。

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注目すべきは、負債の内訳。これは、向こうのハフポストさんの資料がわかりやすかったので、ご紹介します

PREPA Must Abandon Its Dependency on Heavy Oil for the Sake of the Puerto Rican Economy | Adrian Brito

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うーん。政府所有企業の比率が37%を占めています。この中には、電力公社や水道公社などなどの公的機関の負債が含まれます。電力公社のデータを見てみましょう。

Energy Sourceを見てみると、ほとんどがOilですねえ・・・。これは原油高の影響を直に受けそうです。火力に頼るにせよ、せめてGasやCoalがもう少し高い比率だったら状況は多少違っていたのかもしれませんが・・・。

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ざっと整理してみると、

  1. お金をばらまき、インフラも整備して本土から大規模な企業誘致を実施。
  2. 工場建設等で、一時的にその地域の金回りは良くなる。
  3. ただ、雇用の産出効果は大きくなく、利益は本土部に吸い上げられる。
  4. 建設投資が一巡した後、地域住民の所得は大幅に減少する。
  5. 職を求め、働ける住民から、本土へ地域住民は移転する。
  6. その結果、残った住民の職も減少する。
  7. 更に、投資したインフラの一人あたりの負担が増加する。
  8. 債務が増大する。←今ここ!

って感じなのでしょうか。いやあ、

どっかで聞いたことがありそうですね( ゚д゚)

誰も助けてくれないの?

ギリシャの時は、ECBやIMFからの支援がありました。『ギリシャがデフォルト』といいつつも、まずそれはIMFから踏み倒そうとしたのであって、一般の債権者には直接の影響が出ていないはずです。(日本のサムライ債は返してくれましたしね)

一方、今回のプエルトリコの件については、FRBは『静観』を決め込んでいます。政治的な目的で作られたECBとは異なり、FRBは一応は『民間機関』なので、『そんな危ないもん触りたくねーよ』というのが本心でしょう。

また、IMFも『国じゃないからなあ』と動けない状態です。ちなみに、IMFとは、世界中のみんなで出資して作った『高利貸しのヤミ金』です。『国』が借金を返せなくなると、IMFから借りることが出来ますが、その代わり『こわーい取り立てのおじさん』たちが、『腎臓って2つあるんだよね♪』みたいなことを言ってくるわけですね。でも今回の件についてはIMFでも、『プエルトリコは国じゃないからこのシノギには手を出せないぜ』というわけですね。

一方の、連邦政府も『あくまでプエルトリコの問題でしょう?』と冷たい感じ。これが、日本の自治体であれば、総務省や財務省あたりからお役人の皆様が『占領統治』をしにやってくるところですが、アメリカでは各自治体の『自由と責任』が重要視されるため、そんなことは出来ません。デトロイトがデフォルトした時もそうですよね。

プエルトリコ債は税金の免除など様々な『旨味』があり、本土の住民も多く保有していますが、アメリカ人の感覚からしたら『自己責任で』ということでしょうか。

更に、もう一段話をややこしくしているのが、プエルトリコは『国』ではないが『アメリカの自治体』でもないということです。その為、破産法の適用ができず、いろいろと債務整理に動こうにも動けない、というのが現状ですね。

ギリシャとの比較で整理してみると

  • ギリシャ:大きな地域のような国。だから、ECBやIMFが支援できる。
  • プエルトリコ:国のような大きな地域。だから、国内法では処理できず、海外の支援も難しい。

って感じでしょうか。

ちなみに、『どっちがやばいの?』という点については、負債総額はギリシャは42兆円、プエルトリコは9兆円程度ですので、

1ギリシャ=約5プエルトリコ

と言えます。

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また、ユーロやEUのあり方、IMFの役割までも巻き込んだギリシャの危機に比べれば、プエルトリコの件については、『アメリカの国内問題』という側面が強く、そこまで大掛かりなことにはならないんじゃないのかなあと思います。日本への影響はギリシャ以上にないでしょうし、為替相場や米国国債の信任性への影響なんかもほとんど無視できる範囲でしょうね。

 

 

ざっとまとめてみました。貧弱な英語力ではありますが、知っている単語やフレーズが出てくると面白いですね。皆さんも『日本のマスゴミがー』というのであれば、海外の報道のされかたや、統計なんかをあたってみたら楽しいですよ!

なお、内容については一切保証できませんので、気になった方はご自身で再調査してくださいね。

 

ではでは、今日はこのへんで

記事制作所要時間:2時間半くらい

TRANSIT(トランジット)24号  美しきカリブの海へ (講談社 Mook(J))

TRANSIT(トランジット)24号 美しきカリブの海へ (講談社 Mook(J))