ゆとりずむ

東京で働く意識低い系ITコンサル(見習)。金融、時事、節約、会計等々のネタを呟きます。

子育てしやすい会社の作り方

こんにちは。らくからちゃです。

ぼけーっと、人気エントリーを眺めていると、ちょっと興味深い記事を見つけました。

  • 筆者は1歳8ヶ月のお子さんを連れて出勤し、発送・PC事務のお仕事をされている
  • 子連れ出勤していない人ほどパフォーマンスが出せない時が多い
  • 筆者を含めた子連れママから『時給を下げて欲しい』との要望が通った

とのことだそうです。うーん、どうです?ブコメを見てみても、『もやもやしている人』がたくさんいますね。

この話を読んだ時、何度かご紹介させて頂いた『残業しない会社』でも、似たような『子連れ出勤』の制度を採用していたことを思い出しました。いろいろ四方山話を聞いていると、同制度初挑戦の女性社員は、『子連れ出勤』をした結果、お給料が上がり、なんやかんやあった上で、同社の役員となったそうです。

今日は、何かを考えるヒントとして、そんな話をご紹介できればなあと思います。

たったひとりの20代女性社員

 今回、主人公となる女性社員は、某商業高校卒業後に、同社が設立後初めて行った『新卒採用』で採用されたひとりです。初めての試みということもあって、工業高校から男子をひとり、商業高校から女子をひとり、アルバイトをしていた大学生をひとり。当時やっと両手で数えられるだけの人数となった同社としては大きな挑戦でした。また、女性を採用することも初めてのことでした。

彼女は入社後、学んできた会計の知識を武器に、債務管理や在庫管理といった業務系システムを中心に活躍し、3年も経った頃には社長から、『ひとりで外に出しても全く問題ない。俺より客の話を理解出来ている。』と言われるようになります。丁度その頃、プライベートでも入籍をし順風満帆だったところ、事件が起きます。

 

一言で言うと『できちゃった』わけですね。

 

彼女の両親は、仕事の都合上海外で暮らしており、夫の実家もまた遠方のため、身内を頼りには出来ない状況。

ちょうど、社員数も彼女が入社した当初からは倍になり、みんなが『モーレツ』に働いていた『家族揃って晩御飯』より、少しだけ前の時代。(あるシステム屋さんが平均残業時間一桁を実現した方法 )。ただでさえ、若手社員の妊娠・出産には風当たりが強い時代に、会社も『ガンガン行こうぜ』という状態となると、女性は辛いですよね。

彼女より年上の女性社員はおらず、『仕事は楽しいけれど、もうこれは、迷惑をかけないようにやめるしかないかな』と思いながら、専務(社長の奥様)のところに相談に行ったところ、こんな言葉が帰ってきたそうです。

あら、おめでとう。見てくれる人がいないなら、会社に連れてくればいいじゃない。昔の人は、あかちゃんをおぶって野良仕事をしたものよ。あなたもこれから仕事が忙しくなるわね。

二人三脚

専務が最初に行ったことは、新しい部署として『管理室』を作ることでした。当時同社は、開発部と販売部しかない状態だったそうですが、それでもなんとか業務は回せていましたので、誰の目に見ても彼女のためであったことは明らかでした。また、会社に子供を連れてこれる『育児室』を設置し、ベビーベッドも経費で購入し、産休明けすぐに復帰できるように準備を進めました。田舎なので高い金額ではありませんが、車で通勤できるよう、近隣の駐車場も借り上げました。

やはり、社内には反発もあったそうです。腕は立つが口の悪い『不良オヤジs』が、何故かよくたむろっている喫煙室で『何もたったひとりの為にそこまですることねえんじゃないの?』とぼやいていたそうです。

それを聞きつけた専務が、『たったひとりが30人しかいない会社なのよ。』『あなたたちも、何か言いたいことがあるなら、他の人と比べず直接いいなさい!』と一喝したところから、たったひとりの為に会社が何をしようとしているのか、全社員が注目することになります。

専務は、地元では有名な会計事務所の所長を父親に持ち、自身も税理士として複数のクライアントを持っています。管理室のミッションは、専務が不在の時に、その仕事を代行することです。管理室の最初のお仕事は、『妊娠・出産』をする女性のための就労規則を作ることでした。

給与規定の原案は、専務が作成しました。のっけから、こんなことが書いてあったそうです。

産休中の給与は非支給とする。非支給とした金額の1/3に相当する額の1/12を、出産後1年間、乳児育児手当として支給する。

産休中は、健康保険から現役時給与の2/3が支給されます。ただし、別途給与を受け取っている分があれば、その分が差し引かれます。ですので、『産休中』の減額した部分の差額を『乳児育児手当』として補填すると、そうすれば、総額で受け取ることの出来る金額は同一となります。専務さん、普段はこういった小狡いことは嫌う人なのですが、よっぽど思うところがあったんでしょうね。

専務の作った草案を、大きくなるお腹を抱えながら、たったひとりの管理室員である彼女がまとめることになります。その中で、『これはもらい過ぎではないのだろうか?』という思いが募っていったそうです。管理室のしごとは、もともと専務が非常勤で行ってきた仕事の代行なので、社内で子供のお守りをしながらやるには良い仕事かもしれませんが、仕事の負荷は高くありません。にも関わらず、受け取る給与は、今までの金額と同等の額に加えて『扶養手当』まで受け取ることができます。

『こんなの、頑張っている他の皆さんに申し訳が立ちません』そういう彼女に、専務はこう返したそうです。『子供が生まれたら家賃が減るの?これからもっとお金がかかるようになるのよ。あなたの仕事は、元気に赤ちゃんと一緒に出社して、何かあった時に、わたしと一緒に考えてもらうこと。何もないならそれでいいじゃない。会社にはそういう仕事も必要よ。あと、どうしても申し訳ないというのであれば、あなたにしか出来ないお仕事をすることね』

子供のいる職場

さて、産後産休期間を経た後、彼女の職場は新しく作られた『育児室』になりました。子育ては彼女にとっても初めてでしたが、それを受け入れることは同社にとっても初めてでした。その間、社内では色々な変化が生まれました。

コミュニケーションが増えた

『育児室』は、授乳中はカーテンで閉じられるようになっていますが、それ以外の時は誰でも入れるようになっています。育児室には、何かと理由をつけて多くの社員が訪れるようになりました。中には、(社長が多かったそうですが)ただ子供の顔を見に来るだけの人もいましたが、そういった人同士で子育てを話題にしたコミュニケーションが広がったり、『ちょっとこういう話があって・・・』とお仕事の情報もたくさん集まったそうです。

タバコをやめた

不良オヤジsですが、子供に会いたいがために、大好きだったタバコを辞めました。タバコを吸いたい気持ちもあったと思うのですが、『ダベりたい』気持ちから喫煙室にたむろしていた側面もあったんでしょうね。新しい『ダベり場』を見つけて満足したのか、『子供の健康に良くない』と最終的には喫煙室を自主返納するようになりました。いつのまにか、不良オヤジsはイクジイsになっていました。

言葉遣いを改めた

不良オヤジsあらためイクジイsにかぎらず、ちょっと言葉遣いの荒い人も何人かいましたが、『子供が覚えると良くないよね』『声が大きすぎるとびっくりしちゃうかも』と、言葉遣いを改める人が増えたそうです。

社内が綺麗になった

これも似た話ですが、『こりゃ子供に見せられないよねえ』というような書類の山や私物のあれこれは早いうちに撤去されました。

社員がライフプランについて考えるようになった

身近に子供がいると、やはり若手を中心に、自分のライフプランについて意識するようになったみたいですね。結婚や出産が相次いだ他、彼女を真似て勉強をする人や、自分の時間をより良く使う方法について考える人が増えたそうです。

時間に余裕を持って行動するようになった

管理室のしごとは、子供の都合によって左右されることがあります。その為、余裕を持って行う必要があります。直接は、管理室だけの話ではありますが、彼女の『子供がどうなっても仕事をやり遂げるための段取り』を見ながら、他の社員も時間により余裕を持った仕事を心がけるようになりました。

その他にも、たくさんの『良い効果』が社内に生まれました。一番大きな効果は、『会社や仲間は、困ったときに支えてくれるんだ』という意識が広がったことじゃないのかなあとわたしは想います。

 

彼女自身は、これまでの管理室員とし ての仕事を振り返り、法律や国・自治体からの様々な支援について勉強をしてみることにしたそうです。今まで殆ど興味のなかった分野だそうですが、子育てに 関する様々な制度を勉強していく中で、興味が大きくなっていった、という側面もあったようですね。

復帰後は、『家族揃って晩御飯運動』を推進する他、曖昧な運用が行われた出張旅費の取り扱いルールの制定、社内全規定のWiki化、各種減税・助成金制度の社員向けパンフレットの作成、地元商店街との交流活動の強化など、今まで低かった全社的な『管理業務』の水準向上に邁進します。

『管理室』は、ただ今までそういうことに取り組む人がいなかっただけであって、無用の長物でもなんでもなく、その重要性が理解されていきます。そして、彼女の『がんばり』に応えようという動きも広がります。以前、ちょろっとご紹介した『社員会』の制度。

社員会は、各委員会の決議を取締役会長兼社員会会長を経て、取締役会に付議することができます。社員会制度開始時の、記念すべき第一号案件は『子育て委員会』による、『子育て支援企業宣言』でした。結果は全員一致で可決。たった一人のための例外が、例外ではなくなった瞬間でした。

お給料の意味

さて、その後も彼女は時間を作って勉強を続け、最終的には中小企業診断士の資格を取得します。そうそう、育休中にMBAなんて記事もありましたが、時間的に余裕があるならば、そういった選択肢も良さそうですね。

その後、彼女は『育児仲間』の旦那さんの会社の案件に始まり、地元自治体へのシステムの提案や、診断士の講習で仲良くなった銀行員のつてで大掛かりな案件に参画するなど活躍を重ねます。まさに、『彼女にしかできなかった仕事』でガッツリ稼いでくるわけですね。初めての新卒採用という大きな投資は、大きなリターンを産んだ形です。

役職としては、事業部部長補佐、2人目出産後は管理室から分離した財務管理室室長を歴任し、専務が『自分の事務所のしごとに集中したい』と退任してからは、財務担当専務、そして副社長まで務めることになります。現在は、3人目の子供をあやしながら、戦略管理室の室員として技術ポートフォリオの管理と見直しにあたっているそうです。

子育て社員のみんながみんな、彼女のように出来るわけではありませんが、社内におけるひとつの『ロールモデル』として、キャリアを継続させることの重要性、適材を当てはめられる適所がなければそれをみんなで作ることの大切さの例として、引き継がれているそうです。

 

さて、この会社の『給料』の考え方について、『扶養手当は必要か否か』を論点に、元UO仲間の同社役員様と少しお話させて貰ったことがあります。その時の聞いた内容がこんな感じ。

う~ん、お給料って、大雑把に分けて

  • 業績給・・・実際の業績に連動する部分
  • 能力給・・・能力や役職に連動する部分
  • 生活給・・・個人の属性に連動する部分

の3つがあると思うけどさ。『業績給』については、うちは業績は個々人ではなく事業部単位で判定することにしているから、あんまり給料には関係ない。『能力給』については、技師とか主任技師とかで多少は変わるようにしているけど、そこまで差はつけないようにしてる。うちで大事にしているのは『生活給』かなあ。

あんまり能力で差をつけても、結局は仕事はチームでするわけだから、誰が欠けても困っちゃう。それに、今は割りと『やんわり』技師とか主任技師とか名乗らせているけど、そこの定義を厳密にしちゃうことにエネルギーを避けるだけの余裕もないしね。

だいたいにおいて、能力のあるひとを給料で評価しても、うちみたいな弱小が他の会社に太刀打ち出来るわけがない。だから、『実力はいろんな形で認めますけど、お給料についてはまずは必要な人のところから多めに配分しましょうね。』ってことでコンセンサスを作ってきた。

普段テレビに映るのは、いつもドリブルをして、ゴールを決めている少数の人だけかもしれないけれど、勿論写っていないところで良いプレーをする選手もいるし、ベンチに座っているだけでも相手に威圧させる効果のある選手もいるさ。それを、ゴールの本数だけで評価しても面白く無いでしょう。

とかなんとか言っていたような気がします。そういや、こんな本もアリましたね。

働かないアリに意義がある (メディアファクトリー新書)

働かないアリに意義がある (メディアファクトリー新書)

 

長谷川 おっしゃる通りです。でも、皆が一斉に働くシステムだと、同じくらい働いて同時に全員が疲れてしまい、誰も働けなくなる時間が生じてしまいます。コロニーには、卵の世話などのように、短い時間でも中断するとコロニーに致命的なダメージを与える仕事が存在しているのですが、皆が働けなくなると、それができなくなってしまう・・・。

──なるほど。アリだって働けば疲れるし、回復するまでには休みも必要だということですね。

長谷川 はい。働いていたアリが疲れてしまったときに、それまで働いていなかったアリが働き始めることで、労働の停滞を防ぐ。つまり、働かないアリがいるシステムの方が、コロニーの長期的な存続が可能になるということです。働かないアリは、怠けてコロニーの効率を下げる存在ではなく、むしろそれらがいないとコロニーの存続が危ぶまれる、極めて貴重な存在だと言えます。

社会の維持に不可欠な「働かないアリ」の存在 長谷川 英祐 氏

  ちょっと、わたしには難しすぎましたが、『社内でお互いの目線を気にしながら競い合わせて評価するよりも、協力しあわせて楽しく過ごせる職場を作るほうが、みんないい結果出せるよ、全員終身雇用なんだから、いつか借りを返せばいいんだよ。』と言っていたところだけは理解できた気がします。

やはり都会は大変なんだなあという話

最後に、本論からは離れますが、今回『子連れ出勤』について調べていて気になった資料があります。

  • 会社までの通勤ラッシュのなか、赤ちゃんを連れていくのは大変
  • 企業内保育所はビル内の環境がほとんどで、園庭が無いため運動不足が心配

企業内保育所は本当に便利? メリット・デメリットとは!

 これって、まんま『東京の問題』ですよね。東京はどうも、子育てをするには大変そうに思うところが多々あります。実家の両親とも離れて住んでいるわけですしね。

そんな一方で、こんな報道もあります。

うーん。ココらへんの話をまとめると、

  1. 働く場所がないから東京に行く
  2. そうしたらただひたすら仕事だけの人生になる
  3. やっと相手が見つかっても妊娠可能ぎりぎりな年齢
  4. なんとか子供が出来ても両親はいない
  5. 社内の託児所まで連れて行くのが大変困難
  6. とはいえ保育所はいつも満員御礼
  7. 家で育児をしてみても相談できる相手はいない上に、生活が成り立つか微妙
  8. なんとか育児に一段落しても、中断したキャリアもコミュニティも取り戻せない
  9. 生まれた子供も当然のように東京で働こうとする

なーんか負のスパイラルだよなあと。やっぱり、前に書いたこれは正しいところがありそうですね。

最後に

今回取り上げた例は、元々の記事の方とは、お仕事の内容も働き方も、採用の経緯も全然異なりますので、参考にはならないと想います。『給料下げるとか言わずにしっかりせえや』とディスりたいわけではありませんので、その辺汲んで頂ければ幸いです。

ただひとつ、考え方として今、『育児で迷惑をかけているよなあ』と思っている人にたいしてお伝えしたいことは、『開き直ってもいいんじゃない』ってことですね。まずはお子さんをしっかり育てることに専念すれば、そこから見えるものもあるかもしれません。その中で、貢献できそうなところで会社に貢献すればいいでしょう。

また、経営者の人に対しては、社員は経営者が他の社員にどのように振る舞うのかをしっかり見られていることを忘れてはいけません。企業文化は、経営者の才覚によって作られる部分は相当大きいように思われます。

最後に、やっぱり子供は国の宝ですね。id:mck47さんの記事も、かわいいなあと端から端まで読んでしまいました。外国人労働者を増やすのもいいですが、ママさんたちの労働参加率をもっと高めることは、長期的な効果もきっとあると想いますよ。

 

ではでは、今日はこのへんで。

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